詭弁にはいろんな種類がある?
一言で詭弁といっても、実は本当に色んな種類があります。
その数、数種類では全く収まらず、皆さんが考えているよりもず~っと多いです。それだけ、人を操る論理は研究されているということの証左なのです。
まずは、それぞれを細かく見ていく前に、大きな(マクロな)分類、カテゴリーを見ていきましょう。
- 集合論的に間違っている命題を提示
- 「早とちり」の議論
- 曖昧な概念の利用による解釈操作
- 人々の感性、感情(時には恐怖勘定)を利用する
- 相手に悟られないように前提条件を縛る・論点のすり替え
僕がざっとまとめてみたところ、きっちり分けられるわけではなく、重複している部分もありますが、上のような分類に分けることができると考えます。
これから、細かく各々を見ていくことにします。
集合論的な命題の誤り
命題というのは、簡単にいえば「X→Y」(XならばYである)、という論理のことです。
これが正しい(「真である」といいます。)ためには、「すべてのXでYが成り立つ」必要があるわけです。例えば、
空一面を雲が覆っているから、そろそろ雨が降り出すな。
これ、一見正しそうに見えますよね。しかし、雲が空を覆って必ず雨が降るなら、「くもり」という天気はあり得ないわけで。
このような日常会話レベルの間違いだといいんですけど、気を付けておかないと、大事な場面で論理破綻してしまうかもしれませんよ。
前件否定の虚偽 (denying the antecedent)
犬は吠えるものだ。ちょっと我慢しなさい。
こいつは吠えないから犬じゃない。我慢しないよ。
「X→Y」 → 「not X→ not Y」 型。
正しくないのは、明らかですよね。否定命題(「裏」といいます。)は必ずしも正しくない(false)のです。
3段論法で、「if X→Y, X→Z」が成り立つとき、「X is not Y , X is not Z」というのもこのパターンに入ります。(色分けしている部分が該当)
後件肯定の虚偽 (affirming the consequent)
対象について知らないと、人はそれを怖いと思う。
じゃあ、怖がりは無知なんだ。
「X→Y」 → 「Y→X」型

集合で考えてみよう。
XならばYなのだから、YだからXだ。…(*)というのは一見正しそうに見えます。
しかし、XだからYということは、XはYに含まれているといえます。
同様に、Y→X が成り立つには、X⊃Yが成り立ってないといけません、
つまり、(*)が成立するためには、完全にX=Yである必要があるんです。
媒概念不周延の虚偽 (fallacy of the undistributed middle)
トップアスリートは皆水分補給をきちんとする。私も水分はきちんと取るからトップアスリートになれる。
「X→Y かつ Z→Y」→ 「Z→X」 型

集合で考えてみよう。
上二つでやってきた集合の考え方をここでも使ってみましょう。結論が、Z→Xなので、X⊃Zが成り立たないといけませんが、
この論理では、左のように、X, ZがY包含されていることしかわかりません。だから、XとZの関係は全くもってわかりません。
もしかしたら、X⊃Zが成り立っているかもしれませんが、この情報だけでは、わからないので、偽とせざるをえませんよね。
ちょっと難しかったかもしれません。論理学的な説明を擁したので、このようになりました。
けれど、こんな数学みたいな議論をするのはここまでです。ここからは、もっと直感的にわかるものばかりです。
「早とちり」な議論
早まった一般化 (hasty generalization)
私は女に何回も浮気された。女は概して浮気性である。
そのまま。「早とちり」です。ごく少数の例から全体を演繹しようとする言論を指します。自覚はなくても、個人的体験などから議論する際によく起こります。
チェリーピッキング(cherry picking)

サクランボを摘み取るように、自分の都合のいいことだけを拾ってくる。
そのように、開示する情報を選んで操作することをチェリーピッキングといいます。メディアによる
「早まった一般化」+「チェリーピッキング」でより強力になります。(以下はあくまでも例です)
(失業率の増加は無視して)日本のGDPは上昇傾向です。
これは、私の行った経済対策によるものに他なりません。
政治家の言葉だけでなく、自分で情報収集してデータを持っておくというのも重要なのがわかりますね。
合成の誤謬 (fallacy of composition)
彼の服や、靴は高級品だ。彼はお金持ちに違いない。
上の例文だと一見正しそうですが、もしかしたら消費者金融にお世話になっている可能性もありますよね。これも論理の面では早とちりです。
早まった一般化とすごく似ていますが、論理という意味ではほんの少しですが、手法が異なっています。
早まった一般化は、少ない例からその事象を一般化しようとしているのに対し、合成の誤謬は、ある者の一部の特性から全体を演繹しようとしています。
このように2つは一応異なるプロセスをとっているのですが、結果似たようなことを指す場合が多いので、同じようにとらえて問題ないでしょう。
分割の誤謬 (fallacy of division)
あの地区の住民の平均年収は高いよね。
じゃあ、あそこに住んでいるA君はお金持ちだね。
これは、合成の誤謬とは逆で、「全体の特性をそのまま構成要素に押し付ける」という考え方。
いまだと、日韓・日中関係が悪いことから、「○○政府はクソ→○○人はクソ」というツイートをよく見ますが、これは典型的な分割の誤謬でしょう。
「A + B = C」で成り立っているものにA = C を押し付ける
のが合成・分割の誤謬といえます。…(**)
Aから帰納的にCを類推して(**)に至るのが合成の誤謬、CからAを演繹して(**)に至るのが分割の誤謬ということですね。
曖昧な概念をうまく利用する
媒概念曖昧の虚偽 (fallacy of the ambiguous middle)
車は免許が必要だ。自転車は車であるから自転車は免許が必要である。
赤字の車は、もちろん自動車のことを表していますが、青字の車は軽車両のこと。意味が違うものを同じ用語で表すことで誘導している。
連続性の虚偽 (Continuum fallacy)
僕の頭は髪の毛が無数にあり、一本抜いてもふさふさのままである。だから、何本抜いてもスキンヘッドにはならない。
髪の毛や砂山の中の砂粒の数は半端なく多いが、有限です。この曖昧性を利用する弁証法です。別名「砂山・ハゲ・あごひげのパラドックス」
道徳主義の誤謬 (Moralistic fallacy)
男女の機会は平等に与えられるべきだ。だから、男女のできることは同じである。
倫理(モラル)というものは、特殊で「―べきだ」という結論を導く際に、仮定が必要でない場合があります。
しかし、後半の記述が「―だ」という結論の場合、事実か否かがはっきりしている。倫理律によって事実を捻じ曲げてしまっているのがこの弁証法です。
→・「隙間の神」(god of the gaps)
この現象は科学では説明できない。神の仕業に違いない…
やたらかっこいい名前ですが、道徳主義の誤謬の一部です。いわば、論理を放棄して全て神の仕業であるとして片づけてしまう考え方ですね。
⇅ 反対の弁証法
自然主義の誤謬 (Naturalistic fallacy)
彼は大の甘党だ。だから、毎食スイーツをあげるべきだ。
この間違いは結構重要なポイントをはらんでいて、「ヒュームのギロチン」という法則に反しているんです。
ヒュームのギロチンとは…?

「-である・だ (is)」という命題からは、推論である「-である(ought to be)」は導けないという法則。
否定しようと数々の説が建てられているが、いまだ完全な否定にはつながっていない。守っておくほうが無難であるといえるでしょう。
(https://c-hanger-in-the-rye.xyz/archives/hume-guillotine.html)より
ストローマン (Straw man)
酒類の販売に関する法律を緩和してほしい。
歴史上で、酒類の法がなくなった国は、今まで労働倫理が下がったためししかないぞ。
相手の主張を引用して、(一部認めることも)あるんですが、それを利用して相手を否定するという弁証法です。
が、相手の主張をが完全でないまたは主張していないことまで付け加える形で引用しており、相手を強く否定するのに有効です。
感性・感情を利用する
未知論証 (ad ignorantiam)
宇宙に終わりが無いことは証明できない。よって、宇宙には終わりがある。
「そんなもんホンマにあるんかいな」というような心理を利用して、未知のものはないという論理を無理やり作るという弁証法です
対人論証 (ad hominem abusive)
政府は○○しなければならない。
汚職事件を起こした人に言われてもねえ…
ツイッターでよく見るやつですね。ただよく考えてほしいんですが、人格を攻撃しても、議題とは全く関係ありませんよね?
だから、この手のタイプは、相手が気に入らないため、ただけなして優位に他多糖としているだけに過ぎないのです。僕は大嫌いなタイプのアホですね。
→・連座の誤謬 (guilt by association)
○○党のバックにはペテン師の○○教団がついてる。だから、○○党は信用ならない。
誰に支持されているかは本来関係ないはずなので、これもある種の対人論証に含まれるとされています。
→・状況対人論証 (circumstantial ad hominem)
ボビーから○○社の製品をおススメされたわ。
ボビーの父親が勤務しているからね。あまり気にするなよ。
なんら、因果関係も関連性もないが、状況理由のみで信用がおけないであろうと判断しています。これも一種の対人論証といえます。
脅迫論証 (ad baculum)
あなた方は、○○諸島の領有権を主張しているが、そんなことは許されない。こちらのものだ。
本来であれば、許そうが許さまいが、どうでもいいはずなのだが、自発表現「許されない」とすることで、暗黙の裡に規則などの存在を示唆している。
論理を示すことなく、威嚇・脅迫して主導権を握ろうとするのがこのタイプの特徴である。
〈パワーワード1言タイプ〉
〈時代背景タイプ〉
伝統に訴える論証 (Appeal to tradition)
女は家事をこなさなければ。昔からの慣習だからね。
パワーワード:昔からの~、伝統だから
新しさに訴える論証 (Appeal to novelty)
ガソリンの自動車はだめだよ。なんたってこれからは、電気自動車でしょ。
パワーワード:これからは~、新時代は~
〈同調圧力タイプ〉
権威論証 (ad verecundiam)
君もモーニングルーティンを決めなきゃ。だって、あの芸能人も言ってたよ?
パワーワード:○○もやってるよ?
多数論証 (ad populum)
みんなしているから、マイケルも○○すべきだ。
パワーワード:みんなも~だから
前提条件を縛る・論点のすり替え
誤った二分法 (false dilemma)
僕に投票するか、地獄のような生活を送るか、2つに1つだ。
他にも選択肢があるはずなのに、前提として2つの選択肢しか提供しないというもの。はじめから選択肢が2つしかないに場合のみ正しい。
ある意味脅迫に近い使われ方をされることもあり、人を操る際に非常に有効となるケースが多い。
論点先取 (Begging the question)
最新のアイフォンは携帯市場でいま一番アツいので、皆欲しがっているわ。
「―ならば~」「-なので~」といった前提条件に検証されるべき不確定なものが愛っているパターン。
上の例であれば、皆が欲しがっているか、いかんに関わらず、「市場で一番アツい」という、曖昧で検証されるべきものを前提条件としている。
また、アツい=人気があること、なので結局「X=X」といっているに過ぎない。この面でも、何か証明する内容ではないともいえる。
→循環論証 (circular reasoning)
約束は守るためにありますから、約束を守るため全力で取り組みます。
「X⇆Y」の論理はが延々とぐるぐるする構造。ミルクボーイの漫才じゃないんだからホントやめてほしいですよね。
XがYの理由になり、YがXの理由になるため(実質ほとんどX=Y)、このような循環論法ができてしまいます。
日本では最近有名になってきた「進次郎構文」もこれに含まれるものが多いような気がします。
→含みのある言葉 (loaded language)
現状の国難を打開するには大人の成熟した判断が必要とされています。
全く論理性は上の例でもわかりませんよね。その通り。なぜならば、この弁証法は、「論理ではなく、語調で組み立てる」という方式をとっているからです。
また、上の例文では、「大人・成熟した」などという文言に加え、「されています」という自発の助動詞を使うことで、
自らの判断でないことを暗示しつつ、国策に反対する人は「幼稚」であると非難するニュアンスが隠されている。
他の例も見てみると、
我々は領土を回復した。なんと素晴らしいことか。
たとえ、侵略であっても、「回復」という言葉を用いれば、かつてから自分の国の領土であったかのように主張できます。
「なんと素晴らしいことか」という文言によってぱっと見の客観性も取り入れており、上の二つの例は類似の構造であるといえます。
多重尋問 (complex question)
政治は変化の時を迎えている。今こそ、C党首に全権力を集中させなければならない。皆さんこのままでいいんですか?
よく、警察の取り調べなどで用いられてそうなイメージの論法です。
命題を複数取り込むことで、一度ではすべてにこたえることができないように設計されています。
しかし、質問自体はYES・NOで答えるように誘導しているので非常に悪質であるといえるでしょう。
燻製ニシンの虚偽・レッドへリング (red herring)
あなた、このヘアピンどこの女のもの?
そんなこといったら、お前も私が仕事の間何してたんだ。
いわゆる論点のすりかえです。論理性が不十分なために主題が変わってしまう場合もあれば、意図して話題を変えに来る場合もあるので注意が必要です。
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