トルクと馬力、何が違うの?【はじめからていねいに車編①】

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「車についてはじめからていねいに」シリーズについて

18歳になると、車の免許を取る資格があります。そのため、高校生の時には全くかかわりのなかったにもかかわらず、大学生になるとクルマはとても身近に感じられるようになります。

しかし、「クルマ」と一言で言っても、様々な種類があります。車種による違いはもちろん、AT、MT、さらにはCVTというようなトランスミッションの違いがあったりと、いろいろ奥が深いモノ。

そのため、なかなかクルマについて理解するのはハードルが高く感じられてしまいます。

そこで、「車についてはじめからていねいに」と題したこのシリーズで、日常にかかわるクルマをイチから見ていきます。

性能を見るときに「馬力」だけではダメ!

1馬力(仏馬力)のイメージ
「馬力」という単位でも英と仏では基準が異なる。単位系については次回解説することにする。

クルマの性能を語るときによく使われる指標の一つが、「馬力」です。

馬力を表すのに用いられる単位の一つにHP(英:Horse Power)があります。「何匹分の馬の力を持っているか」を表すという非常にわかりやすさいゆえに、一般的によく知られているのだと思います。

しかし、カタログを見ると、他にもさまざまな指標があることからもわかるように、「馬力」はクルマの断片的な情報しか表せていません。

クルマの「加速力」や「引っ張る力」に該当するような項目を見ても様々な指標があります。そのため、真の車の性能を知りたければ、指標を総合的に見なくてはなりません。

その中でも、よく混同されやすい「馬力」と「トルク」について見ていきます。特にここでは、まず物理科学的に何が違うのか、じっくりと解説していきます。

大事な点は最後にまとめるので、結論が欲しい人は、まとめへGO!

「馬力」は仕事量(出力)、「トルク」はモーメント

正確な理解をしようと思ったら、物理の知識が多少必要になります。

単位だけをみて「トルクって物理で言うところの「仕事(量)」なんだ!」と勘違いしてはいけません。そのことをしっかりと押さえておくためにも基本的な物理の知識を見ていきましょう。

「仕事(量)」、「仕事率」ってなに?

クルマは、シャフトを軸として回転することでエネルギーを伝えています。しかし、回転運動から取り上げると少々厄介な議論になってしまいますので、まずは直線運動から見ていくことにします。

仕事(量)について

馬力やトルクを理解するために必要な物理の知識についてサッと見ていきます。まずは、「仕事(量)」について、下図を参照しながら見ていきます。

仕事率とは?公式と誰でもすぐに分かる求め方!|高校生向け受験応援メディア「受験のミカタ」

仕事とは、齟齬を恐れず簡単にいうと、「力を加えたことによって発生するエネルギー量」だといって構いません。

今、F(N)の力で、S(m)分、物体を移動させています。

力がいくら強くても、(摩擦などにより)S=0 になってしまうと、物体がえられる(運動)エネルギーは0です。(運動エネルギーKは、K=mv2/2 と書けるのですが、速さv=0になってしまいます。)

結論から言うと、この時緑の人がした仕事Wは

W=F×S ……(1)

と表されます。つまり、「仕事(量)=力×距離」であると覚えておけば問題ありません。

このようにして表される仕事の単位は、 J (ジュール) が一般的に用いられます。ただし、食品などでは、cal (カロリー)が用いられることがあります。(1 cal=4.184 J)

仕事率について

「率」とついていることからもわかるように、「単位時間当たりにおこなわれる仕事」ということができます。(仕事率 P=ΔW であるということです。)

仕事率の国際単位系は W(ワット) であり、これは「1秒当たりにおこなわれる仕事」です。つまり、微分などの難しい作業を行わなくても仕事率は算出できます。

P=W÷T(かかった秒数) ……(3)

単位系としては、[W]=[J/s] であると理解しておけばよいでしょう。

見てわかるように、仕事率には「時間」が絡んできます。単位時間の中で、どれだけ仕事をできるかという効率を問うのが仕事率です。

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日本と海外の出力は違う。その「出力(=パワー)」に該当するのが仕事量だ。

このような「エネルギー効率」を表す言葉、皆さん知らず知らずのうちに日常で使っていませんか?

「日本のコンセント(海外では「ソケット」といいますので注意してくださいね)の「○○」は100Wだ。」など。

そうです。○○に当てはまる言葉とは、「出力」です。つまり、仕事量とは「出力」を表しているということができるのです。

ちなみに、後述しますが、「馬力」とは単位時間あたりに発揮される車のパワーです。つまり、馬力とは(回転運動の)仕事量に相当します。

(参照) 速さを用いて仕事率を表すことができる

ここで、(2)より、W=F×Sであるということができます。つまり、

P=F×(S÷T)……(3a)

Sは距離、Tは時間なので、距離÷時間=速さ、ですよね。

P=F×V……(3b)

つまり、「仕事率=力×速さ」という式でも表すことができます。

回転運動を考える

さて、直線運動での「仕事」や「仕事量」について考えてきましたが、実際のクルマは回転運動をしています。回転運動ではどのように考えていけばいいのでしょうか。

モーメントって何?

まず「モーメント」という概念を取り入れる必要があります。結論から言っちゃうと、このモーメントこそが「トルク」に該当します。

モーメントは、シーソーを考えてもらうとわかりやすいです。

座る位置を変えると、重量差も覆る!

上図を見てもらえればわかるように、普通にシーソーに乗っていても重量に差があれば、つり合いは取れません。

しかし、重い子がより支点に近い方に座ってあげることで、うまくすればシーソーが釣り合います。

このように、「回転させようとする力=モーメント」は距離と力(ここでは重量)に関係しています。つまり、モーメントTは次のような式で表すことができます。

T=F×r……(4)

「回転運動の仕事量」が馬力だ!

<注>導出はやや難しいです。最悪、結論だけ見てもらえれば全然大丈夫です。

モーメント(=トルク)の定義を踏まえて、回転運動における仕事について見ていきます。

微小な角度Δθ回転した時、棒の先がΔx、移動したとします。微小な角度なので、棒に対して垂直であるとみなすことができます。

この時、棒が受ける仕事は、微小な角度Δθ回転するときに受ける仕事の和であると考えることができるので、

ΔW=Σ F×(Δx)……(5a)

ここで、Δθは非常に微小な角度であるので、次のような仮定を置くことができます。

Δx≒r×Δθ (=円弧の長さ)……(5b)

この仮定(5b)を先ほどの式(5a)に代入すると、以下のようになります。

ΔW=Σ{F×r×Δθ}……(5c)

ここにモーメントの定義である(4)の式を当てはめます。

ΔW=Σ{T×Δθ} ⇔ W=T×θ……(5d)

このように、回転運動においては、仕事=モーメント(トルク)×回転角と表されます。

単位時間に回転する量を「角速度」と言います。つまり、角速度ωの定義はこのようになります。

Δθ=ω……(5e)

角速度の定義(5e)を(5d)の左式に当てはめると、仕事量を表すことができます。

P=Tω……(5f) ← cf. P=ΔWでしたね。

見返してみると、直線運動の時の式である(3b)と似ている形になりました。

そして、この仕事量こそが「馬力」と呼ばれるものです。馬力は、「車の出量(パワー)」なのですから、当然ですよね。

トルクと馬力の数学的な関係について

ここまで、トルクと馬力について数学的に見てきました。

トルク:T=F×r ((4)を参照)

馬力:ΔW=P=T×ω ((5f)を参照)

というように表されるのでしたね。(F:力、r:回転半径、ω:角速度)

ということは、一般的に「トルク」に「角速度」をかけると、「出力(馬力)」が出るということになります。

馬力の単位を国際単位系と一致させた場合には、確かに成り立ちます。

ただし、PS(仏馬力)やHP(英馬力)などの単位を用いた場合には、定数倍しないといけなくなることに注意しなければなりませんね。

これらの単位系についてや、実際トルクや馬力はクルマのどういった性能にかかわってくるのかというお話は次回にします。

Cf. 回転数と角速度の関係性

たまに、「トルク」に「回転数」をかけたものが「馬力」という説明をすることがあります。これは定性的には正しいのですが、厳密には正しくありません。

各速度の単位は本来、[rad/s]です。(rad:ラジアン。2πrad=360°となる。)

回転数の単位は[rpm:revolution per minute]で、1分間当たりの回転数なので、定性的に表しているのは回転速度なのですが、数式的には各速度とは別物です。

そのため、厳密には回転数をかけたうえで、定数倍して補正する必要があります。

まとめ:重要なポイントをおさえよう

馬力とトルクって物理科学的に何なの?という話をしてきました。ここで、今までのおさらいをしておきましょう。

今回は、ちょっと勉強臭くなってしまったところもあるので、難しかったかもしれませんが、分かりやすくかつ、詳細に書いたつもりです。

POINT

<物理科学的に抑えてほしいところ>

・直線運動において仕事とは、力と「動かした」距離の積で表される。

・仕事率とは、単位時間あたりになされる仕事量のことである=仕事効率のことである。

・直線運動と円運動では、一般的に同じ公式を用いてはいけないことが多い。

・円運動においてモーメントとは力と「支点からの」距離の積で表される。

・角速度とは、単位時間あたりに動く角度の大きさである。

円運動における仕事量は、トルクと角速度の積で表される。

何よりも重要なのが最後に示した項目です。

トルク:モーメント

馬力:円運動における仕事量(出力)

ということを考えると、トルクと馬力の関係を抑えることもできるので、覚えておきましょう。

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