サッカーが日本でも1,2を争うスポーツとなって早20年近く経ちました。久保建英君のようなニュースターも現れ、期待も高まるばかりです。
しかし、日本代表が強くなるためには、観戦時に楽しみつつも、きちんと分析できる力が必要になるはずなんですが、日本はそこが諸外国に比べ整っていないかも…
Footballistaに代表される雑誌メディアでは、深くサッカー(Football)について掘り下げているのですが、
一般層とは少し距離が離れているような節もあり、一般的に根付いていないのが現状だと個人的には感じています。
このサイトを見てくださっている皆さんには、私の観戦にあたっての基本知識をしっかりと伝えられたらいいなと思います。
基礎編とはいえ、歴史も含めまあまあの深さで書いたつもりなので、わかりにくいところがるかもしれませんが、
そういう時は、各章の最後にあるまとめ(CHECK IT OUT!)見てくれれば、大体のことがわかると思います。
<これは1ページ目のみの目次です>
「戦術」と「戦略」は違う!?
広辞苑によると、次のように定義されています。
戦術(tactics)…戦闘実行上の方策。一個の戦闘における戦闘力の使用法。
戦略(strategy)…戦術より広範な作戦計画。各種の戦闘を総合し、戦争を全局的に運用する方法。
つまり、戦術は戦略に含まれています。
これを混同しないことが実は意外と重要であると考えています。
よく日本代表などで戦術が批判されるのですが、戦略の運用が間違っていた場合、取れる戦術が限られてくるため、批判が無意味になるからです。
では、フットボールにおける戦術・戦略とはいったいどういうことなのでしょうか?
個人的にアメリカナイズされたサッカーという言い方は好きではないので、これからはフットボールと呼ぶことにします。アメフトではないのであしからず。
フットボールにおける戦術とは?
戦術の定義を考えよう!
戦術とは、「一つの戦場における戦闘力の使用法」でしたよね?
一つの戦場→一つの試合、戦闘力→チームととらえられるので、フットボールにおける戦術というのは、
「その試合の準備も含めた、ある1試合におけるチームの運用法」
と定義でき、これには、もちろんフォーメーションの決定なども含まれます。
狭義には、試合中のみのチーム運用ととらえることもできますが、今回は1試合にかける準備を含め戦術と呼ぶことにします。
一試合に限らずとも、チームの根幹にあるコンセプトがある場合も多いのですが、
これは戦術なのか戦略なのか難しいところなので、両方の側面からコンセプトについては、考えてみることにします。
ツイッターの戦術分析界隈で有名な「らいかーると」さんの書かれたアナリシス・アイは名著として名高いので、紹介しておきます。
試合前から試合直前にかけて練られる戦術
試合中ではなく、試合前に練られている作戦というのは、どのジャンルにおいても、大まかに2つにわけることができます。
- 相手のことについて→相手の分析
- 自分たちのことについて→トレーニング
最近はテクノロジーの進歩により、プロの世界になると、分析力は桁違いに高まってきています。そのことで、より緻密な情報戦が繰り広げられています。
よって、試合前から、戦術の重要性が高まってきているのです。
チームの内部事情なので、私たちには評論することはできませんが、知っておいたらいいかも。
相手の分析について
相手を分析する際には、これまた2つの要素から成り立っています。
- 相手のフォーメーションを含めた選手配置の特徴を見極める
- 相手選手の個人の癖を解析する
戦術と呼ばれる中でも、2つの戦術があるのですが、前者が全体の戦術、後者が「*個人戦術」と呼ばれるものを分析しています。
*個人戦術だけではなく単なる「スキル」の癖も分析しています。
個人戦術と単なるスキルというのは異なっていますが、そのあたりは下で解説します。
個人戦術とは?
個人の単なるスキルとも違う!
「個人戦術」とは?
フットボールのメンバーは、11人ですよね?
その11人の個人のある種スキルによって全体戦術的優位性が得られる場合、「個人戦術」ということができます。
もちろん、華麗なドリブルや、シュートというのは素晴らしいテクニックなのですが、これらは個人戦術とは言うことができません。
個人戦術の定義は、スペインでは下のようにされています。
「ボールを持っていない状態で、周囲の1人の味方と1人の敵に関連して生まれる判断に焦点を当てた戦術」
つまり、個人戦術とは、1対2の関係での判断だということができます。
攻撃で言えばオフザボールの動き、守備で言えばカバーリングの連続ということができます。詳しくはまた別記事でアップする予定です。
フットボールは、細かく区分するといくつもの個人戦術で成り立っており、フットボールは「1対2のスポーツ」だということができます。
フットボールは全局面で複数の1対2の関係で成り立っている!
この1対2で優位性を持たせるための判断ことを「個人戦術」という。
試合中に練られる戦術
現代フットボールは、試合中の臨機対応な変更が必要となってきます。もうハーフタイムまで戦術変更を待っていていい時代は過ぎました。
監督の指示を待たずに、選手自らそういう判断を下すことができるようになるには、長期にわたる戦略的な練習を要します。
そのため、余程熟練したチームでない限りは、監督を含めたスタッフ陣が早め早めに試合の状況を把握することが重要になってきています。
そのような戦術面の発展により、すぐ選手配置や、プレッシングの方法などを変更するようになった現代では、
試合前に決めたフォーメーションなどもうほとんど何の役にも立たないようになっています。(*注1)
RB Leipzigの青年監督であるJulian Nagelsmannは、戦術的には天才と持て囃されている監督ですが、前半のうちに、かなり早く選手交代に動くことでも有名です。

監督として20代から活躍を続けるJulian Nagelsmann。
時には、選手よりも若い時もあるが、圧倒的な知識量で界隈から高い養家を得ている。
60分までに交代をしなかった場合、勝率が下がるというデータもあります。(時と場合によると思いますが)
<近年流行の可変システムについて>
*注1) 現在は、「可変システム」と呼ばれるシステムが採用されることが多くなっていることも原因です。
可変システムでは、状況によって選手配置が異なっているため、1つのフォーメーションを決めることが難しいのです。

近年は特にバルセロナの生んだ鬼才、Pep Guardiola (左写真)が様々な試みをしている。
近年はサイドバックがミッドフィルダーのようにふるまう(偽サイドバック)など様々な可変システムが増えてきています。
これらは、「ハーフスペース」と呼ばれるゾーンを有効活用するために生み出された可変システムです。(5レーン理論参照)
これらの理論は、正確にいうと古くからあったのですが、
言語化し、理論化したことで枠組み作りが現在進行形で進んでいます。

偽サイドバックといえば「アラバロール」ともいわれるほど、
David Alaba(左写真)のイメージがついている。彼を偽サイドバックに仕立てたのもPep Guardiolaである。
代表ではトップ下のポジションを務めることもあるほど、ユーティリティー性に優れる。
そのため、観戦・分析する場合はとりあえずビルドアップするとき、ボールを奪われた(ネガトラ)とき、自陣での守備時(ポジトラ)の選手配置は区別して見てみると面白いです。(後述)
従来の「フォーメーション」を見るためには、ゴールキック時の選手配置を見るとわかりやすいですね。
フットボールはシームレス化してきている
以前は、「攻め・守り」という局面で、フットボールはとらえられてきました。
しかし、2009年からペップ・バルサが数年にわたり欧州を席捲したことで、どんどん対策が進んでいき、
今となっては、フットボールには4フェーズ(局面)あることがもはや常識のようになて来ています。
それは今までの二つに、「トランジション」の攻守を合わせたもので、各フェーズは正確に言うと、以下の4つになります。
- ボール保持時(従来の「攻め」のイメージ)
- ネガティブトランジション時(ポジトラ:ボールを失ったとき)
- ポジティブトランジション時(ネガトラ:ボールを奪ったとき)
- ボール非保持時(従来の「守り」のイメージ)
近年は、トランジションどころか8分割してゲームを考えるなど、局面の切り替えの影響を最小限にするための連動した動きが重要になってきています。

トランジションが重要視されるようになったのか?
答えから言うと、「効率がいい」からなんです。
<ポジトラについて>
全チームの得点構成を見てみると、もちろん比率に差はあれど、セットした攻撃(10秒以上ボールを回して攻撃する)のゴール比率は全体の20-30%にしか及びません。
つまり、セットプレー(フリーキックやコーナーキックなど)を含めて、ボールを奪って5タッチ以内10秒以内で点数の70%近くが決まっているということになります。
ということは、ボールを奪った後の選手配置を整えてやれば、おのずとゴールが増えるはずだというのがポジトラ時の選手配置の考え方なんですね。
高い位置でボールを奪えば、それだけゴールも近いわけですし、相手ディフェンスも崩れているはずなので、理にかなっています。
<ネガトラについて>
もちろん、ポジトラで優位を得た相手を封じ込めるという意図はあるのですが、もう一つ重要な点があります。
それが、「即時回復」(すぐにボールを奪い返すこと)でによって、試合の支配率を高める。ということなんです。
主に、バルセロナ方面でこのように考える人が多いのは、1974年のクライフが中心だったオランダが用いたトータルフットボールを原理だとする指導者が多いからなのかもしれません。
<Footballにおける戦術のPOINT>
試合にかける前準備も含めて「戦術」ということができる
フットボールは複数の「1対2」の関係で構成されている(個人戦術)
近年は、試合中に戦術を臨機応変に変更することが求められる
近年は、可変フォーメーションが主流になっている(偽サイドバックなど)
フットボールのフェーズは4つに分けられ、それぞれにプレー原則がある
可変フォーメーションに関しては、別記事で詳しくまとめる予定。
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